2012-2013 トップリーグ 第8節 対 東芝ブレイブルーパス

2012.11.01

チームに生まれた“うねり”さらに力強く

 4連敗のあとの3連勝。しかもすべてボーナスポイントを獲っての勝利。生みの苦しみを耐え抜いた結果、相手がどこでも変わらない「攻めて勝つ」リコーのラグビーの形をしっかり示して残した結果は、勝ち点以上に価値があるものだった。
このいい流れで迎えたトップリーグ第8節の東芝ブレイブルーパス戦は、「リコーはどこまでいけるのか」と胸を膨らませ始めたファンの期待に応える、強い気持ちを感じさせるものとなった。

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 ケーズデンキスタジアム水戸は晴天ながら風が強く、ピッチをほぼ真っすぐ縦に吹き抜けるコンディション。トスで勝った東芝が風上のサイドを選びアドバンテージを確保した。

CTBリキ フルーティの左足のキックで試合が始まる。この処理で東芝にノックオンが出て、リコーが最初のアタックを仕掛けたが、そのアタックでこぼれたボールを拾うと、東芝が追い風を生かしキックをリコー陣内深くへ蹴り込む。これをWTB小松大祐が全力で戻り処理するが、ラックから出したボールのキックがうまくヒットせず、前方の味方に当たる。右サイドゴール前の東芝のスクラムに。

これを展開しアタックするとリコーがオフサイド。3分、ほぼ正面の位置からペナルティゴール成功、東芝が先制した。次のキックオフボールを確保した東芝はボールを回して攻め上がっていく。

リコーはこれを受けまいと前に出て止めていく。LO馬渕武史やCTBフルーティが鋭いタックルを浴びせボールをこぼさせ、自陣10mラインを越えたあたりの位置でラインアウトを得る。だがノットストレートで東芝スクラムに。右中間から順目にアタックを仕掛けると、リコーがハイタックルの反則。

左サイドゴール前にタッチキックを蹴った東芝は12分、ラインアウトモールで押す。リコーもこれに備えなんとか押し戻そうとするが、圧力は強く左中間インゴールになだれ込んで6番がトライ。コンバージョンは外れたが東芝は0対8とする。

リコーも風下に立ちながらアタックの形をつくろうと奮闘。FB横山伸一のキックを相手がこぼすと、それを確保してアタック。FLカウヘンガ桜エモシが左中間を縦に突くなどして攻め立てると、スペースを見つけたWTB小松が左サイドを突く。ゲインしてポイントをつくると右に展開。スピードに乗ったいいアタックだったが、激しく絡まれたCTBフルーティが右中間のハーフウェイラインを越えたあたりでノットリリースザボールを取られる。

16分、風に乗せ左サイドゴール前に深々とタッチキックを蹴った東芝は、ラインアウトをキープしFWが縦のアタック。ディフェンスを突き破ると左中間に8番がトライを決めた。コンバージョンは外れたが0対13と点差を広げていく。

リコーは19分、キックオフボールの蹴り返しをキャッチしたCTBフルーティがカウンターアタックを仕掛けゲイン。さらにボールをつないだSO河野好光が東芝のディフェンス網のギャップに鋭く潜り込むと、東芝にオフサイド。正面22mライン手前でペナルティキックを得ると、ショットを選択し成功。3対13とした。

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しかし、その後は東芝が一方的に攻める。25分、リコーのノットロールアウェイからのペナルティキックで再びゴール前ラインアウトを得た東芝はまたモールでトライを狙う。なんとか押し止めたリコーだったが東芝のボールキープが続く。中央ゴール目前のラックで攻防が続き、ボールが動かなくなるとスクラムで再開。東芝が強く押しリコーにコラプシング。再び組み直すがまたもリコーに反則。

緊迫した時間が続いたが32分、東芝が展開するとボールをこぼしリコーがこれをさらってターンオーバー。NO.8マイケル ブロードハースト、CTBフルーティ、SO河野とつないでタッチに蹴り出す。22mラインの少し外のラインアウトから東芝がアタックするが、CTB山藤史也の激しいタックルでボールがこぼれリコーが奪取。さらに敵陣深くにボールを蹴り込むと、その返しがダイレクトタッチになり、リコーは一気に敵陣22mライン付近まで前進した。

キックを織り交ぜ、互いに攻め手をうかがった後の37分、左サイドハーフウェイライン付近のラインアウトからリコーがボールをキープしてテンポのいいアタックを見せる。右サイドまで展開するとFB横山伸がギャップを突き、そこから戻しFLカウヘンガが突進を見せる。フェイズを重ねると左サイドをWTB小松が抜け出す。ゴールラインぎりぎりの位置でつかまったが、素早いサポートでリコーがボールをキープ。左中間のラックに素早く駆けつけたSH池田渉が右に出すと、LO馬渕が低く飛び込んでトライ。コンバージョンもSO河野が成功。10対13と3点差にして試合を折り返した。

耐え抜いたリコーが主導権奪った後半

 後半風上に立ったリコーは一気に攻める。1分、CTBフルーティがキックオフボールを蹴り返すと、これに反応したNO.8ブロードハーストが飛び出し、ボールをキャッチした選手にタックル。ノットリリースザボールを奪う。正面やや左、距離は30m強のペナルティゴールをSO河野が決めて同点に追いつく。

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 さらに前半最後同様テンポのよいアタックで攻め込んだリコーだったが、ゴール前で倒れ込みの反則。さらにラインアウトからの東芝のアタックへの対応でノックオン、さらにスクラムからのアタックへの対応でオフサイドと反則とミスを続け、8分にペナルティゴールを許し再び3点差に。

そのすぐ後の12分、東芝陣内右サイド浅めの位置でスクラムを得ると展開。ギャップを突いたFB横山伸のゲインからCTBフルーティにつなぎ右隅にポイントをつくるとオープンサイドへ展開。ラインに加わったPR柴田和宏が縦の突進を見せ、SO河野がギャップに身体をねじ込み粘る。するとSH池田がすかさず左のNO.8ブロードハーストへ出すと、そのまま抜け出し左中間インゴールへ飛び込んでトライ。コンバージョンも決まり20対16とついに逆転に成功する。リコーは14分にPR長江有祐を高橋英明に、CTBフルーティをワイナンド オリフィエに交代。

いいアタックが続く。17分、ラインアウトを奪いSH池田が上げたハイパントをCTBオリフィエがキャッチして22mライン付近までゲイン。さらにオフロードパスを受けたNO.8ブロードハーストが左中間を抜けゴールに迫る。ここからワイドに展開。相変わらずのテンポのよさで、フェイズを重ねると再びブロードハーストが左中間を破る。インゴールに飛び込んで連続トライ。コンバージョンは外れたが、リコーが点差を25対16に広げた。

東芝も意地を見せる。直後の21分、ボールを動かしてリコー陣内へとゲインしていくと、リコーがハイタックル。中央22mライン付近からタッチに蹴り出すとまたもラインアウトモール。確実に押し込んでいくと左中間にトライを返す。コンバージョンははずれたが25対21とワントライで逆転可能な差に。22分、NO.8ブロードハーストをコリン ボークに交代。

リコーはその後も足を止めず攻める。敵陣でCTB山藤が激しくタックルしターンオーバー。さらにLO馬渕が縦に突進。ノットロールアウェイを獲る。スクラムからNO.8ボークがアタックすると、今度は倒れ込み。25分、リコーは右中間22m付近からペナルティゴールを狙ったが、これは外れた。

さらに27分、自陣からのSO河野が仕掛け、オフロードパスを走り込んだCTB山藤に通しゲイン。左中間から右サイドに展開すると、ゴール正面付近で東芝にオフサイド。ペナルティゴールを決め再び点差が開く。残り10分強で7点差。28対21。

相手のカウンターをよく見てタッチラインの外に押し出したリコーだったが、ラインアウトを奪われ、東芝にアタックを許す。自陣中盤から22mライン付近でフェイズを重ねられた。

リコーはボールを奪えなかったが、よく相手を見てヒット。ディフェンスラインを丁寧にリロードし対処した。さすがにプレッシャーのかかる場面で、ゴール前ではオフサイドが出たが、東芝がこの日こだわり続けたゴール前ラインアウトからのモールにはここにきて対応。押しとどめた。アンプレアブルからスクラムへ。激しいプレッシャーを受けたが耐え続けるリコー。反則も取られたが、残り時間がない東芝は正面の位置からのスクラムにこだわる。

36分、何度目かに組み直したスクラムからの混戦で、リコーがボールを奪取。受け取ったSH池田が前方に思い切って蹴ると、よく伸び、弾みながら敵陣深く22mライン付近へと転がり、右サイドのタッチラインを割る起死回生のタッチキックに。

これで勝負あったかに見えたが、東芝ボールのラインアウトで対し必死のディフェンスを見せるリコーがオフサイド。東芝はエリアを戻すと最後のアタック。さらにリコーに反則とミスが出て、再びゴール前のスクラムの危機が訪れる。

ホーンが鳴っても東芝はミスを犯さずボールをキープし攻め続ける。リコーはゴール前の反則が続き、LOカウヘンガが一時的退出処分を受け退場。

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東芝は中央のスクラムからボールを出し左中間を攻めると44分、11番が左サイドにトライ。28対26となり、コンバージョンが決まれば引き分けというラストプレーを迎える。

「ディシプリンを保ってプレッシャー」
山品博嗣監督からピッチへ指示が飛ぶと、14人の選手が黒い壁となってキッカーに迫る。東芝の21番が高く弧を描くボールを蹴りゴールに向かっていったがアシスタントレフェリーの旗は上がらず、ノーサイドのホイッスル。リコーは28対26で、トップリーグ創設後初となる東芝戦の勝利を挙げた。マンオブザマッチにはクイックなボールでアタックのテンポをつくり、ピンチで確実に危機管理したSH池田渉が選ばれた。

「相手の格に感じる不安より、練習を通じ得ている自信のほうが大きい」(FL川上力也)

NO.8マイケル ブロードハースト

「シーズン序盤は結果が出なかったが、それについてパニックにならないよう心がけることができたと思います。コーチ陣も冷静で、自分たちのやろうとしているラグビーを信じ、そのためにすべきことを続けてきました。その結果が出ている。
今日はモールディフェンスにフォーカスをしていたけれども、そこはうまくいかなかった。FWとしてはハッピーではないですね。ただ、フェイズディフェンスはよいプレーもあった。取り返せた部分もあります」

CTBリキ フルーティ

「9番、10番の仕事をサポートすることを意識して試合に臨みました。またディフェンスのラインスピードを上げて、相手のアタックにプレッシャーをかけること。それについては、全部ではなかったけれども、できた部分もありました。
アタックについては、前半は風下だったので、お互いに近いところでプレーしなければいけませんでした。そういう中でもしっかりコントロールはできたと思う。後半は風上に立ち、相手の自陣から脱出するためのキックが、難しいものになるようプレッシャーをかけようと」

FL川上力也

「昨シーズン、重要なポジションにレベルの高い外国人選手がいて、それを軸に戦っている場面もありました。でも、彼らと一緒にプレーする機会を通じて、気づかないうちに日本人選手のレベルが底上げされてきたと思うんです。それは試合に出ているメンバー、そうでないメンバーを問わずに。
あとは若い選手はこれまでのトップリーグでいい成績を残したチームに対し、リスペクトしすぎるようなことはないようにも見えます。それよりも自分たちが練習を通じ感じている成長の感触のほうが大きく、それが自信の根拠になっているんじゃないですかね。
東芝さんはゴール前5mぐらいの位置でのスクラムは、ほぼ100%の確率でトライを獲っていると思います。彼らのプライドを懸けたプレー。それに応える気持ちで、なんとか脱出しようと。(今年の東芝の印象は?)変わらないですね。個々が体をしっかりつくって、立ってボールをつなごうとしていた。ただこちらがダブルタックルを仕掛けたりしたので、そればかりではなかったですが。
(最後のディフェンスでオフサイドが重なったが?)正直、ゴールを背にかなり切迫して他の選手の立ち位置が見えていませんでした。おそらく立ち位置でオフサイドだったんだと思います」

HO森 雄基

「キヤノン戦ですこしサポートが遅かったので、その修正は意識して練習していました。東芝さんはブレイクダウン強いので。ターンオーバーはそんなになかったと思うのでまずまず成果は出たと思う。
モールへの対応はなかなかFWがうまくまとまれなかった。終盤、倒すのか押すのかで、押すという意思統一を図ってそこでやっとまとまった。そのほかのディフェンスはよかった。ゲインライン切られてもすぐに立て直せていると思う」

WTB星野将利

「(風があったので)前半、BKもダイレクトに、縦に、といっていたのですが、ミスが出てしまった。そこは課題ですね。今日は攻め込まれた場面でもBKにボールを出してくれていたのでもう1トライ獲ってボーナスポイントが欲しかった。FWに申し訳ない」

「すべての選手がチームを支えようとしている」(CTBリキ フルーティ)

 記者会見を終えた山品博嗣監督は、非常に冷静に試合を振り返った。
「前半、プラン通りに戦えたのが大きかったですね。本当は、前半は風上を取りたかった。どんなゲームになるかわからなかったので、前半差がついてしまったら後半苦しくなると思っていたので。ただ、トスで負けてしまった。そこでなるべく時間を使いながら、スローに戦って10点差以内で折り返すようなプランにしたんです。それがすごくはまって。それに加えてトライも獲ることができた。
あとは、フィジカルで負けているようでは勝負にならないと思っていたので、そこはまずこだわりました。前半少しブレイクダウンで負けていたところもありましたが、後半修正できたのでそれもよかった。ディフェンスではオフサイドのペナルティがかなりあったけれど、もう一度見直したい。ただ変な抜かれ方はしていないし、自分たちのディフェンスが試合を通してできていたと思う。
1ヵ月後の近鉄戦はまた大事な試合。力のある相手なので、そこを目指して1ヵ月準備します。この1ヵ月は大きい。戦術面の積み上げもできるし、選手同士のいろいろな組み合わせを試すこともできる」

この日、1ヵ月半ぶりの出場機会ながら準備を怠らず日々を過ごしてきたことを示して見せたCTBフルーティは言った。

「週末に試合に出る選手の努力だけではなく、試合に出場する機会がない選手もチームを支えようと務めている。それが今の結果につながっている」

日々、全力を尽くしチームのために準備を続けること。華やかなキャリアを持った実力者は、その背中で手本となってみせた。
シーズンは勝てば勝つほど長くなる。戦い抜くには、チームがひとつになり、どんな事態にも応えられるチームになる必要がある。1ヵ月のウインドウマンス、さらなる一体感をつくりだせるか。フルーティのような姿勢をチーム全体が高いレベルで共有できたとき“この先”の扉は開く。


(文 ・ HP運営担当)

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