2010-2011 ワイルドカードトーナメント 2回戦 対 NECグリーンロケッツ

2011.01.27

風景となった「チームファースト」

「全部ターンオーバーするぞ!」。

ディフェンス役のメンバーが大きな声を出す。ワイルドカードトーナメント2回戦、NECグリーンロケッツ(NEC)戦に向けたスターティングメンバーによるアタックのトレーニングを、チームがひとつになって盛り上げていく。

「シーズン中もチーム全体として戦術理解のレベルは高まった。それはホワイトチームのメンバーがブラックチームとの練習を通じて、チームがやろうとしていることを理解しようと努力したからです」(ランス・ヘイワードヘッドスキルコーチ)

故障者が出て急遽出場することになった選手が、すぐチームにフィットし、チームのパフォーマンスを落とさず闘い続けられていることは、今季のリコーブラックラムズ(リコーラグビー部)躍進の大きな理由だ。それを支えているホワイトチームの積極性は、シーズン終盤を迎えても、なお高く維持されている。

日本選手権出場という新たな目標を達成すべく、チームは同じ方向を向く。「チームファースト」のスローガンは言葉から風景へと変わっている。

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 激戦のトップリーグ最終節から2週間ぶりの大阪・近鉄花園ラグビー場。12時、闘いが始まった。

先制したのはNEC。2分、リコー陣内左10mラインを越えたあたりのラインアウトから、バックスに展開。10番から13番へつなぎ、CTBロイ・キニキニラウの前でタイミングをずらす小さなパスを入れ12番へ。キニキニラウとWTB小松大祐との間を突破。右中間をゴールに向かって走りそのままトライ。インゴールエリアで12番の選手が雄叫びを挙げ気持ちをあらわにする。互いにこの試合に懸けるものは大きい。コンバージョンも決まって0対7。

7分、リコーは相手の反則を突く。ラックでのオフサイドと、ラインアウトで跳んだFL覺來 弦に空中でつかみかかる反則のペナルティ2つを得て、タッチキックを蹴りゴール前まで前進。左サイドのラインアウトのチャンスを迎える。

ラインアウトをキープし、左中間をモールで押す。NECも押し返すが、最後尾でボールをキープしたLOカウヘンガ桜エモシがモールの右サイドを突く。ゴールライン目前でつかまるがマイボールをキープし、SH池田 渉がすかさずオープンサイドに展開、SO河野好光が空いた外のスペースへロングパス。バウンドしたボールに、FB小吹祐介がタイミングを合わせ走り込みボールをキャッチすると大外を走るWTB星野へつなぎ右隅にトライ。カウヘンガの突破をサポートしたリコーのフォワードへの対応にバックスを使ったNECディフェンスをうまく破る。コンバージョンは外れたが5対7と点差を縮めた。

SH池田の好判断でトライ連取

 次のトライもリコーが奪う。14分、NECのノットリリースザボールで得たペナルティキックで敵陣に侵入。右サイドのラインアウトからアタックを仕掛け、WTB星野が狭いギャップを縫いゲイン。22mラインまで前進する。

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 リコーはさらにマイボールをキープ。グラウンドを大きく使いボールを動かしながらアタックを繰り返す。右中間でボールを持ったCTBキニキニラウがタックラーをひきずりながら、後ろから走り込んだSO河野にオフロードパス。これが通り河野はゲインラインを突破。右サイドを走る。右隅ゴール目前でつかまったがNECにオフサイドの反則。

SH池田がタップキックを蹴り素早くリスタート、フォワードがアタックを仕掛ける。右中間にラックができるが、NECに再び反則、ノットロールアウェイ。

リコーはタッチラインの外に蹴り出し、ラインアウトからアタック。レフェリーがプレーに巻き込まれ右中間のスクラムで再開。SH池田は自らショートサイドに持ち出すと右サイドに走り込んできたWTB星野にパス。相手11番との1対1をステップでかわし、寄せてきたフォワードのタックルをかいくぐりインゴールエリアに手を伸ばしグラウンディング。コンバージョンも決まり18分、リコーは12対7と逆転に成功する。

23分、ハーフウェイライン付近のスクラムからNECがバックスでアタック。リコー陣内5m付近でタックルを受け、ヒザをついた10番がボールを放さずノットリリースザボール。ここでSH池田がまたも素早くリスタート。右中間から右サイドへ角度をつけて走る。1つタックルをかわすと、10mライン付近で内側にサポートしていたSO河野にパス。河野は一気に加速しディフェンスを振り切り、そのまま駆け抜け右中間にトライ。コンバージョンも決め19対7とリードを広げた。

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 26分にはFL覺來のチャージでこぼれた相手ボールをLOカウヘンガが拾って突破、31分にはWTB星野がカウンターを見せ、相手をひきずりながら大きくゲインするなどチャンスをつくったが、一進一退が続く。

34分、リコーはラインアウトから展開したボールをこぼし、ターンオーバーされる。リコー陣内にNECがなだれ込み、右中間22mラインに到達。ここでリコーがノットロールアウェイの反則。NECは右サイドのタッチライン外へボールを蹴り出し、ゴール前ラインアウトを得る。

36分、NECはラインアウトからモールをつくって右中間を押し込む。リコーも対応するが勢いは止まらずゴールラインを突破されトライ。コンバージョンは外れたが19対12とNECが迫る。

しかし直後のキックオフボールを巡るプレーでNECがオブストラクション。右中間22mライン付近でペナルティキックを得たリコーは、ショットを選択。SO河野がこれを成功させて3点を追加。22対12として前半を終えた。

PR伊藤がステップ切り逆転トライ

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 互いに選手の交代はなし。CTB金澤 良のキックオフで後半がスタート。NECは左中間でこれをキャッチ、ラックができると9番がリコー陣内へハイパントを上げる。これがSH池田とSO河野、NO.8ハレ・ティーポレがつくる三角形の中央に落ち、大きく弾むと飛び出してきた10番が手を伸ばしボールをキャッチ、そのまま前方へ走り突破。6番、11番とつないで左中間を前進、ゴールラインを越えると回りこんで中央へトライ。コンバージョンは外れたが22対17。

後半開始0分のトライで、NECはペースをつかむ。7分、自陣のラインアウトから攻撃を仕掛け、ハーフウェイライン付近まで前進。中央から9番がまたもキックを蹴り込む。今度は22mライン内側のFB小吹とWTB星野の中間に落ち不規則にバウンド。星野がボールを拾うが、そこにNECの11番が猛然とタックル、互いに選手が集まり密集ができるが、11番がボールを奪い、そのままインゴールまで走りトライ。コンバージョンも決まり22対24。処理の難しいキックから連続トライを奪われたリコーは、前半につくった10点のリードを8分間で失った。

だが、直後のキックオフボールをNECがこぼすと、落下地点に詰めていたPR伊藤雄大がこれを奪う。相手ディフェンダー2人をハンドオフでかわし、前へ。ステップを切ってインゴールまで走りきりトライ。コンバージョンはポストに当たり前方に落ち惜しくも外れたが、27対24と再逆転する。リコーは13分、PR伊藤に替えて柴田和宏、NO.8ハレ・ティーポレに替えてロッキー・ハビリを送る。

しかし、NECの勢いは衰えない。16分、リコー陣内に侵入すると攻撃を継続。接点での強さを見せ、つかまっても倒れずゲインを繰り返し進んでいく。22mラインを突破しゴール前へ。リコーも集中力を見せディフェンス。身体を張った激しいタックルで相手のノックオンを誘う。だが直後のマイボールスクラムを回したとして反則の判定が下り、ボールはNECに。ゴール前右中間でスクラムが組まれると、9番が8番の背中を叩きショートサイドへ走る。8番はボールを拾い9番へ。9番は大外を走り込んだ14番にパス。これが通り右サイドを突破。右隅へ飛び込んでトライ。コンバージョンも決まり27対31とNECが再びリードした。

河野のPGで食らいつくリコー

 キックから得点を奪い、リコーのアタックのリズムを狂わせてペースをつかんだNEC。必死にディフェンスするも相手陣内に侵入できないリコー。このバランスは覆らないが、リコーはかすかな隙を見出して、流れを変えようと奮闘する。

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 23分、NEC陣内ほぼ正面、10mラインに達していない位置だが、NECのノックオンオフサイドでペナルティキックを得ると、リコーはゴールを指差す。

距離は40m以上。今シーズン、何度もチームを救ってきたSO河野の右足が振り抜かれるとボールは低い弾道で一直線にゴールへ。クロスバーに当たるとボールは高く弾み、そのままバーを越えインゴールに落ちる。ゴール成功、30対31。

残り15分ですべてが決まる。NECは再びリコー陣内に押し込む。必死のディフェンスで耐えるリコーの我慢の時間はまだ続く。27分にはタックルを仕掛けたSO河野が負傷。一瞬表情をゆがめたが、立ち上がり戦列に戻る。29歳の"同期"CTB金澤がその肩を無言で強く叩く。

NECの勢いは続く。29分、22mライン上右中間のスクラムからアタック。タックルを受けても倒れず、もがいて一歩ずつジリジリとゲインし攻撃を継続しながら前進。そして左中間のラックからショートサイドへボールを出し細かくつなぐ。ライン際のわずかなスペースを、11番が走り抜けインゴールエリアへ。中央に回り込んでトライ。コンバージョンも決まり30対38。試合の流れを決める大きな得点が入った。

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 だが、リコーには今シーズン何度も接戦を制してきたという自信がある。31分にLO金 泳男に替え馬渕武史、LOカウヘンガに替え金 栄釱、32分にはFB小吹に替えて横山伸一を送ると、最後の力を振り絞り、アタックを繰り返す。

38分、ほぼ中央10mラインを越えたあたりでNECがオフサイド。SO河野がゴールを狙い、今度はポストの間をきれいに抜くキックで成功。33対38として1トライで同点、ゴールも決まれば逆転できる点差に詰め寄る。キックオフからラスト2分、リコーはNECゴールに向かって走り続ける。

右サイド22mライン付近でラインアウトを得ると同時に40分経過のホーン。最後のアタックを仕掛けるが、左中間の接点で前を向き突破を試みたWTB星野の手からボールがこぼれる。レフェリーがノックオンを示す動作をした後、ノーサイドのホイッスルを吹く。

少しでも上へ――新たな目標に向けてチャレンジし続けてきたリコーラグビー部の今シーズンは、ここに幕を閉じた。

「後半は、相手のプレッシャーを受けたことでプレーするスペースが狭まり、アタックでのオプション(選択肢)が減ってしまった。それは何よりも必要なものでした。最後の10分はいい形がつくれたと思うのですが」
ランス・ヘイワードヘッドスキルコーチは、この日の試合を振り返る。だがこう続けた。
「2週間前にヤマハ(発動機ジュビロ)に勝ち、『シーズン6勝』という目標を達成しても、今日までの間、選手はモチベーションを高く保ちました。これは簡単なことではありません。日本選手権出場という次の目標に即座にシフトし、そこに向かってハードワークを続けたここ数試合のチームには、強く成長を感じました」

トライを決めたPR伊藤雄大は試合後言った。
「結局、順位通りの結果でした。自分たちにはまだトップ6の力はないと考えないといけない。今シーズンは6勝を挙げるために皆で努力してきて、最終戦でやっと達成できた。同じように、来シーズンはトップ6に入るための努力を続けて、目標達成を目指して、またギリギリの闘いをすることになる」

6位のNECとの差は勝ち点にして2点。直接対決では敗れたがトップリーグ、ワイルドカードトーナメントともに5点、1トライの差だ。わずかな差に見える。

だが、すべてのチームが勝ちたいと思っている。1つでも多くのトライを奪い、1メートルでもゲインしたいと思っている。その中で、"80分を闘いトライひとつ"の差を埋め合わせ、上回るのがどれだけ難しいことか。それは、これまで以上の努力を続けて、はじめてチャレンジの機会を与えられるそんな差と言える。それが日本最高峰のジャパンラグビートップリーグで闘うということなのだ。

今季、自分たちのラグビーで勝利を勝ち獲り、リコーラグビー部の新しい歴史をつくる経験を共有したメンバーは、同じ方向を向き、もう一度チャレンジできるだろうか――彼らなら、できる。そして、その先にある次のステージを、私たちに見せてくれるはずだ。

(文 ・ HP運営担当)

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