【Review】トップリーグ2020 第1節 vs Honda HEAT

2020.01.16

“特別”なシーズンが始まる。2年連続となったHondaとの開幕戦

ラグビーワールドカップ日本大会の熱狂から約2ヵ月。かつてない注目の中でジャパンラグビートップリーグ2020が開幕した。監督として7度目のトップリーグを迎える神鳥裕之監督、今季は共同主将を務める濱野大輔・松橋周平という2人の若きリーダーが引っ張るリコーは、優勝を目指すと宣言し準備を続けてきた。

今季は長い休止期間は設けられず、総当たりで15試合を戦う規定が採用され、初戦の相手は2年連続でHonda(昨季9位)となった。昨季はトライを奪い合って39−34という接戦になったカードだけに、今回も熱戦となることが予想された。リコーは新加入のベリック バーンズをSOに据え、LOデーモン レエスアス、WTBアマト ファカタヴァという新顔も名を連ねる布陣で試合に臨んだ。

 

曇天の東大阪市花園ラグビー場。試合開始前、細かな雨粒が少し落ちたがそれもじきに止み、風はほぼなく寒さをそこまで感じさせないコンディションで試合が始まった。

SOバーンズが蹴った最初のキックは敵陣の左奥へ。黒いジャージの面々が詰めてプレッシャーをかけ、FBロビー ロビンソンのスペースへのキック、LOロトアヘアポヒヴァ大和のキックチャージなどが決まり、リコーが押していく形で試合が始まる。

 

しかし、最初のラインアウトでリコーはノットストレート。ハーフウェイ付近でHondaにスクラムを与える。互いに高い集中力で臨んだスクラムはHondaがボールを出す。10番が左中間後方にできた無人のスペースを見つけハイボールを蹴る。リコーはWTB小松大祐がカバーするがチェイスしてきた11番も鋭く、ゴールライン目前でボールがその手に収まりかけるも、ここはこぼれてノックオン。(前半5分)

 

リコーは自陣ゴール前のスクラムでコラプシングを獲り、PKを蹴り出してエリアを回復。22mラインを越え、自陣15m付近のラインアウトをキープして展開する。SH山本昌太は右中間から、左に並んだBK陣の位置を見て、ディフェンスラインの裏へキックを蹴る。しかしこれが相手14番に入る。カウンターとなり、ギャップを抜けた14番はインゴールポスト直下にグラウンディング。

 

レフェリーはキックを拾おうと飛び出した SOバーンズが相手選手と交錯し倒れたことから、オブストラクションの有無について映像での確認を行った。しかし反則は認められずトライ。CVも決まり0−7となる。(前半8分)

 

追いつきたいリコーだったが、Hondaのハンドリングエラーなどでボールを得る場面は多かったものの、ラインアウトやキックのミスが響き攻撃の糸口を見出せない。前半18分、FBロビンソンの裏のスペースを狙ったキックがダイレクトタッチに。自陣でのラインアウトをHondaに与えることとなる。

 

ここでサインプレーを決めリコー陣内深くに入りこんだHondaが落球。リコーはスクラムに押し勝ちPKで押し戻す。ラインアウト後の密集からLOポヒヴァ大和が抜け出し、LOレエスアスにつなぎ右中間を縦にゲイン。キックの蹴り合いを挟みリコーはSOバーンズ、CTB濱野、LOポヒヴァ大和らがディフェンスラインに挑んでいく。だがHondaディフェンスの出足は鋭く、倒されたところを絡まれノットリリースザボール。(前半21分)

PKで前進したHondaは、22mラインの手前のラインアウトをやや乱れながらもキープ。デリバリーが遅れたのを見て、FLブロードハーストマイケルが9番に迫る。しかしタックルを外され、9番が前に出る。9番からのオフロードパスを受けた5番が突進し、リコーディフェンスを弾きゴールラインに迫る。倒された5番がリリースしたボールをもらった3番は、展開に備え広がろうとしたリコーのギャップを見逃さず前へ抜け、ポスト左にトライ。CVも決まり0−14。(前半23分)

 

出足のよいディフェンスでプレッシャーをかけて反則を奪い、キックでエリアを獲り、セットプレーからのアタックで確実にスコアする——。リコーが目指すようなラグビーを実行し追加点を奪ったHondaが主導権を握る展開となった。


 

リコーはなんとか攻撃の形をつくろうとするが、リードを奪い勢いに乗るHondaディフェンスは堅く、重い。ハイボールを蹴り込むなど変化をつけるも流れは変わらない。前半29分、PR柴田和宏が頭部をぶつけて倒れ、脳震とうの確認のため退出。替わって大川創太郎が入った。(柴田は後半開始時に復帰)

リコーは自陣からのPKで前進。さらにHonda陣内右中間、10m付近で得たスクラムから出しFWで攻める。タッチライン際のFLエリオット ディクソンがゲインし、さらにHO森雄基とPR大川のサポートを受けながら、LOポヒヴァ大和がディフェンスラインに突入しもがく。次のフェイズでFLブロードハーストもギャップに身体をねじ込み、展開。SOバーンズが左に走りこんだFBロビンソンにパスを出すがノックオン。アタックチャンスを迎えるも、継続できなかった。(前半30分)

 

前半終盤、リコーは自陣浅めのスクラムで反則を獲られ守りの局面に。的確なモールディフェンスなどで相手をしっかり止めスクラムを得ると、SH山本がタッチに蹴り出しプレーを切りにいく。しかし、これを見越したかのような配置で待っていたHondaの11番はハーフウェイ付近、左サイドからクイックスローイン。アンストラクチャーでのアタックにディフェンスの対応が遅れる。

 

14番が右中間を前進し22mライン手前まで運ぶと、ポイントをつくり左に展開。キャリーした6番が放したボールを11番がもらうと、リコーディフェンスにわずかにできたギャップを鋭く突いて抜け左中間にトライ。CVも決まって0−21。(前半41分)

 

重い失点を喫し、前半が終わった。

速く、重いディフェンスに苦戦も、SO堀米とWTBアマトがこじ開ける

リコーはPR柴田が復帰したほかはメンバー入れ替えを行わず後半へ。これ以上の失点は避けねばならず、また早い時間帯にスコアをしていく必要もあった。しかし、最初のスコアのチャンスはHondaへ。リコー陣内の右中間10mライン付近のスクラムでペナルティを奪うとPGを狙う。これは左にそれた。(後半3分)

 

Hondaのペースが続き、リコー陣内でボールを動かし攻めていく。リコーも接点で対抗し自陣深くへの侵入は阻む。スクラムでの優勢はキープし、ペナルティを獲っては反撃のきっかけにしようとするが、ミスが相次ぎ決定機をつくれない。

 

リコーは自陣に蹴り込まれたボールを拾ったFBロビンソンがカウンターアタック。自陣10m付近にポイントをつくり右に展開。SOバーンズからギャップに走りこんだFLブロードハーストにパスが出るが、わずかに合わずこぼれる。これを5番に拾われ、つないだ11番が中央を抜けリコーの選手をハンドオフして加速。ポスト右にトライを決める。CVも決まって0−28。リコーはHO森に替えて小池一宏。(後半13分)

 

攻めるしかなくなったリコー。Hondaはリスタートキックをキャッチして自陣から攻め上がろうとするなど、点差を得て思い切ったプレーが目立ち出す。リコーはこれを逃さずプレッシャーをかけ、こぼれたボールを奪う。飛び出してくる相手ディフェンスを、かわしながらボールをつなぐと、FBロビンソンが左中間のスペースにアタック。相手ディフェンスの間を縫うように走ってゲインする。ゴールまで5mの位置まで運ぶと、ディフェンスに迫られながらも後ろ手でパス。これが合わずHondaに入る。歯がゆい時間が続く。(後半15分)

 

互いに攻めるもディフェンスを割れずミスでアタックが途切れるケースが続く。リコーは相手の落球を拾うとWTBアマトにつなぎゲイン。さらにSOバーンズからWTB小松へのキックパスなどを成功させ攻めていく。

 

守るHondaにラックでのオフサイドがありリコーはPKを得る。ここでリコーはSH山本をマット ルーカスに、SOバーンズを堀米航平に入替。新しいハーフ団で巻き返しを狙う。(後半18分)

 

PKをタッチに出しゴール前のラインアウトとしたリコー。しかしスローインがオーバーしHondaに。絶好のチャンスだったが、ここも攻撃を組み立てることができない。

 

リコーは噛み合わないゲームの中で頼みの綱となっていたスクラムで、もう一度ペナルティを獲る。ハーフウェイ付近のPKで前進し22mラインの内側でラインアウトを得る。ゴールまであと10m。ここでWTB小松に替わりキーガン ファリアがピッチへ。(後半24分)

 

ラインアウトを手前で合わせキープ。タッチライン際でモールを組み、止まったところで後方のHO小池がキャリー、密集を抜けゴールラインに迫る。ポイントをつくるとNO8松橋、CTB濱野がキャリー。Hondaの堅いディフェンスに挑んでいく。SHルーカスが左右にパスを出し突破を狙っていく。しかしHonda14番が、スペースを狙い走るSO堀米を背後からとらえノックオン。このチャンスも潰えた。リコーはPR柴田を大川に、PR眞壁を西和磨に入替。(後半26分)

 

リコーはハーフウェイ付近、右サイドのHondaのラインアウトのこぼれ球を、鋭く飛び出したHO小池がセーブ、展開し左へ。Hondaのディフェンスのセットがやや遅く、リコーはテンポを上げボールを動かし攻める。ここでHondaにオフサイド。リコーはPKをタッチに出し、ゴール前ラインアウトとした。

 

これをキープし、左中間にモールをつくるとBKも加え押していく。残り5mを切り、Hondaにコラプシング。リコーはアドバンテージを得た状態で中央を攻める。ラックから出したボールをSO堀米が受けると、ボディバランスと鋭いステップを見せて左中間のギャップに仕掛ける。堀米はWTBアマトにつなぐと、アマトは左中間インゴールに持ち込んでトライ。CVは外れたが5−28とした。(後半30分)

 

一矢報いたリコーだったが、リスタートキック後、自陣でのHondaのラインアウトで、ランナーを止めようとしたFLディクソンの肩が相手選手の頭部に当たり、危険なタックルだとして映像確認が行われた。ディクソンにイエローカードが出て10分間の一時的退出が科された。リコーはLOポヒヴァ大和に替わり柳川大樹。(後半32分)

 

リコーは自陣からボールを回してチャンスを探る。右サイドをFBファリアが抜けてゲイン。足にかけるとチェイスしたSHルーカスがボールの処理にいった相手選手をタックルしつかまえる。そこにNO8松橋が詰めてノットリリースザボール。いい連携が生まれる。

 

ルーカスはすぐさまリスタート。左に振るとFBロビンソンが裏のスペースにゴロキック。詰めたWTBアマトがボールを拾いゴールに迫るが、バランスを崩し転倒しラックに。

左隅のラックからリコーがフェイズを重ねていく。Hondaにオフサイド、PKをもらったリコーはタップして再開しFWで力の勝負に出る。NO8松橋がグラウンディングしたかに見えたが認められない。今度は迷いのない動きを見せるSO堀米らが挑み粘り強くフェイズを重ねていくが、ポスト直下のラック戦でノックオン。リコーがようやく自分たちらしいアタックを見せたが、Hondaも最後まで集中力を切らさず守りきった。

 

40分経過を告げるホーンが鳴り、ノーサイドを迎える。リコーは5−28で敗れ、開幕戦の3シーズン続けてきた開幕戦の連勝が止まった。次節は福岡・レベルファイブスタジアムにてNECとの開幕戦を24−18で勝利した宗像サニックスと対戦する。厳しい船出となったが下を向いている時間はない。

監督・選手コメント

神鳥裕之監督

ワールドカップ後の注目されているトップリーグの初戦を、この素晴らしいスタジアムでプレーできたことに感謝申し上げます。今日の内容は完敗と言わざるを得ません。我々がやりたかったことをHondaさんにやられました。強いセットピースから、いいローンチプレーをして、勢いを持ってストラクチャーで戦っていく。そういうプランをやられてしまった。一方で我々は強みを消されてしまったことが勝負を分けたと思います。勝負事ですので勝ち負けはどちらかにつく。結果に一喜一憂せずに次のサニックス戦に向けた準備をして、チームを立て直していきたいと思います。

(ハーフタイムにはどのようなことを伝えたか)自分たちで準備してきたプランをしっかり実行しようと伝えました。選手からもそういうコメントが出ていましたので。【以上共同記者会見にて】

 

今日はラグビーをさせてもらえませんでした。相手のラインスピードの速さやフィジカルの強さに対しては当然準備してきたのですが、(それ以上の)いい出来だったというほかない。我々はセットプレーを基盤としたストラクチャーをつくってきたので、それをもがれてしまうとこういう展開になってしまう。

ただアンラッキーな面もあった。相手のラインスピードを消すために裏に蹴るというのは用意していたプラン。それがボールの跳ね返りだったり、こちらのミスでターンオーバーになってしまったり。

ただ、完全にやられてしまったといって落ち込むのが一番いけない。よかったこと、できなかったことを整理して、疑念を消して、自信だけは失わせないようにしたい。やれることをやればどこにでも負けないチームだと思っていますので。

NO8松橋周平共同主将

完敗でした。Hondaさんは、自分たちにゲームプランを実行させない素晴らしいラグビーを見せた。それに尽きます。ミスボールに対する反応なども速かった。今年は優勝を目標にしていますので、この一敗は痛い一敗になるかもしれないですが、まだ14試合ありますし、負けたあとこそが大事なので、チームをどう立ち直らせるか。リーダーとしてチームをもう一回結束させたい。次はチームのスローガンである“Keep Standing”をグラウンドで表現して必ず勝ちたい。

(試合で感じたこと、ハーフタイムに話したことは)硬さがあって、いつも通りの動きができていなかった。テリトリーを獲りたいのにキックがうまくできていなかったり、ノックオンが多かったり。普段ならしないミスが出てしまった。今日までいい準備はできていたので、やれるだろうという自信はありました。それが硬さにつながったのかもしれない。コミュニケーション、視野の広さ、キックの正確さなどを再確認していきます。スクラムは優勢だったと思います。ただ、Hondaさんも仕掛けてきましたし、いいヒットはできているのに、そのあとに気の緩みが出て、プレッシャーをかけられた場面もありました。【以上共同記者会見にて】

この試合の後、リーダーとしてどんな話をするかは重要。チームは混乱していると思うし、自信を失っている可能性もある。でも、この状況を跳ね返して次の試合でいい試合ができれば、一気に勢いに乗れるとも思う。どう伝えるかは帰りの新幹線でよく考えます。あとは僕自身のプレーを見直します。少し硬かった。キャプテンはプレーで示さないといけませんから。

CTB濱野大輔共同主将

Hondaさんの自分たちに対するリスペクトが上回っていました。いいプレッシャーをかけてきて、それによってミスが出てトライにつながってしまいました。アタックでもHondaさんは常にドミネイトしてきて、自分たちは差し込まれてしまった。ディフェンスも自分たちのものではなかったと思う。自分たちのラグビーが実行できなかったのが敗因。これを教訓にしてサニックス戦に臨みます。同じ過ちを繰り返さないことが大事。始まったばかりなので。

SH山本昌太

すごくいい準備はできていました。チームとしてのまとまりもあったし、ノンメンバーの選手の協力もあっていい練習ができていた。自信を持ってグラウンドに立てていました。ただ強みのセットプレーで自分たちらしさを出せなかったことで浮き足し立ってしまった。開幕戦ならではの硬さもあった。同じイメージでプレーできていたとも思うんですが、うまくいかないことが多過ぎた。やりたいラグビーができない状況が80分間続き、修正できないまま終わってしまった。

(次に向けて)スクラム、ラインアウトのところはスタッフから指摘があると思いますが、試合では自分たちが予想していないようなミスが出ることもあると痛感したと思う。そうなったときに本来の姿に立ち返れるように、スキルやマインドのところを再確認したい。悪いところは全部出たと前向きにとらえたい。今年のチームはそれができるチーム。

WTBアマト ファカタヴァ(トップリーグ初トライ)

今日の試合はボールを持つ場面はあまりなかったのですが、トライできたことはとても嬉しいです。グラウンド上では、CTBの(松本)悠介などとたくさんコミュニケーションをとりながらプレーできていたと思います。それは良かった。次の試合ではもっとボールを持てるように、しっかり準備をしていきます。また頑張りますので、応援よろしくお願いします。

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

PAGE TOP