【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第10節 vs.静岡ブルーレヴズ

2024.03.22

目前のライバルに対し、後半の攻勢で2点差に迫るも惜敗

リーグワン第10節は、秩父宮ラグビー場での今季初となるホストゲーム。勝ち点差5で追いかける静岡ブルーレヴス(静岡BR)を迎え3勝目を目指したブラックラムズ東京(BR東京)は、試合後半の追い上げで2点差に迫り粘りを見せたが、振り切られ29-36で惜敗した。

先制はBR東京。SO中楠一期の好判断でゲインし、さらに攻めてペナルティを誘うとラインアウトモールを押し込みNO8ネイサン ヒューズがトライ(6分)。しかし静岡BRのタッチライン際のスペースを突くアタックでゲインを重ねられ、BR東京は立て続けに3つのトライを許し(15分、20分、24分)、7-21とリードされる。

30分、SH山本昌太のハイパントの争奪に勝って敵陣でアタックチャンスを迎えると、すかさず左から右へ展開。WTB西川大輔が前方に蹴り自ら確保してトライしたかと思われたが、これは映像判定でノックオン。だが直前にペナルティが出ており、ゴール前ラインアウトからモール、止まるともう一度左から右に展開。今度はWTBネタニ ヴァカヤリアが中央付近から弧を描くようにして走り右隅にトライ。前半終了直前にはマット マッガーンがDGを決め(42分)、17-21まで迫って前半を終える。

後半は入りの時間帯に左サイドでキャリーを繰り返されてゲインを許し、4分にトライを奪われる。主導権を取り戻せないまま、20分にはPGで失点し17-31。だがBR東京は、リスタートキックの蹴り返しを使ってハーフウェイ付近からアタックを仕掛けると、テンポを上げ相手を左右に振って前進。左サイドのスペースを見つけたSH山本のキックパスがWTBヴァカヤリアに通り左隅にトライ(22分)。さらに自陣の密集からのピックゴーで前方のギャップを抜けたLOマイケル ストーバーグが、ビッグゲインに成功し敵陣中盤へ。今度はSOアイザック ルーカスがキックパスを放ち、左サイドのWTBヴァカヤリアから細かくつないでディフェンスを振り切り、CTB礒田凌平が公式戦初トライ(24分)。連続ポイントで29-31と詰め寄る。

スタジアムは熱を帯びたが、33分にハーフウェイ付近のスクラムからの展開でゲインを許し、左サイドにトライを奪われ29-36(33分)。リスタートキックから敵陣に入り逆転を懸けたアタックを仕掛けたBR東京は、ノットリリースザボールでボールを失い、さらなるチャンスはつくれずノーサイド。3勝目には手は届かなかったが、7点差以内の敗戦で得られるボーナスポイントを積み上げ、勝ち点を12とした。

エリアの獲得とアタッキングラグビーを両立

「ところどころでいいアタックを見せることもできた」(ピーター ヒューワットHC)

「後半のトライは、僕がBR東京に来てからでもベストに近いトライであるように感じた」(FBマッガーン)

試合後のコメントでも聞こえてきたことだが、トライやそれに至るまでのプロセスで、前進を感じる一戦だったのではないだろうか。前半の2つのトライは、こぼれ球に反応したSO中楠のキックと、SH山本のハイパントで成功した敵陣侵入を得点に結びつけた。「正しいエリアでプレーする」という目的を果たすために、少し多めにキックを使おうというイメージの微調整やチャンスを確実にものにするのだというチームの精度への意識が感じ取れた。

後半の2つのトライは、中盤から仕掛けたフェイズアタックが機能し前に出たものと、LOストーバーグのビッグゲインを活かしたもので、どちらもフィニッシュでキックパスを使ったという共通点があった。接点での優勢やラインブレイカーの働きが、ディフェンスにエラーを発生させるという定石と、前方への推進力を十分に生み出せるフェイズアタックができる、高いフィジカルに裏付けられたチームの地力をうかがわせる場面だった。

ゲームキャプテンを務めたFL松橋周平は「戦うべきエリアで戦うこと」と「攻めると判断したときは、素早くセットしてそれに対応する」ことのバランスが重要だと述べた。

蹴るか走るかは二者択一ではなく、局面に合わせた使い分けが大切で、どちらを選択したとしても、その後に精度を保ったプレーができるかどうかがスコアボードを変えていく。判断のチューニングと意思の共有、そして精度をアップできれば、アタックの現状は必ず変わってくると素直に思えたゲームだった。

点を獲られても「とにかくアタックするしかない」という焦りはなかった(CTB礒田)

一方ディフェンスは、少しBR東京らしさが出せなかったといえるかもしれない。局面によってはディフェンスがタイトになりやすい状況を見抜いた静岡BRが、長く速いパスに強みを持つSHを先発させ、ワイドにボールを動かしてゲインしていこうというプランにはまった。エッジで生まれがちだったスペースを何度も攻められた。そうしたアタックへの対応に起因するのかもしれないが、広めにできたギャップをクリーンに抜かれるケースも何度かあった。だが、ディフェンスについては微調整を図っているところだという声もある。ブラッシュアップが進めば、改善も期待できるだろう。

ディフェンスがうまくいかず、3つのトライを続けて奪われたあとの雰囲気について、CTB礒田が振り返る。

「『とにかくアタックするしかない』とかそういう焦りはなくて、正しいエリアで戦うことを貫こうというコミュニケーションをとっていました。(略)そこにアイザック(SOルーカス/前半37分から登場)が入ってきて、アタックなどでモメンタムを与えてくれたという感じでした」

この日、チームが掲げたキーワードは「Whatever it takes(何が何でも)」というものだったという。それを胸に戦ったからか、チームにはどこか吹っ切れた感じやドンと構えた感じがあった。前半の終わりのDGはFL柳川大樹とHO佐藤康が連携して決めた会心のジャッカルがきっかけになっていたが、佐藤が感情を表に出してチームを盛り上げようとする姿などは印象的だった。

「BL東京(東芝ブレイブルーパス東京)は本当に楽しみな相手。勝つためにやれることを全部やる」

FL松橋は絶好調の相手との対戦を“楽しみ”と表現した。いつでも強気な松橋らしい言葉ではある。ただ、単なるチームの鼓舞のための言葉だとも思えないのだ。そこには、チームの真の力への静かな自信がうかがえた。次節は3月24日(日)、14:30キックオフ。秩父宮ラグビー場で2位・BL東京にすべてをぶつける戦いになる。

「PCAクラウドマッチデー」として開催。試合終了後には特別表彰も

この試合はピー・シー・エー株式会社の協賛による「PCAクラウドマッチデー」として開催した。試合終了後には、ピー・シー・エー株式会社より、この試合でチームに貢献したネタニ・ヴァカヤリア選手に「PCAクラウド賞」を贈呈した。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

皆さん、こんにちわ。敗れてしまったのは残念ですが、しっかりファイトしカムバックはできたのかなと。ところどころでいいアタックを見せることもできました。ただディフェンスが少し消極的でした。静岡BRがグラウンドを広く使ってプレイしてきたのに対して、私たちはエッジでのディフェンスが消極的で、そこで相手に勢いをつくられてしまった。22mラインの内側に入られてからの相手のアタックも効果的でした。

―SO/FBアイザック ルーカスの投入について

まず、今日はSO中楠(一期)がゲームのセットアップをしてくれました。彼はシーズンの最初のほうで数試合に出て、1回離れてその間に学びの時間をしっかり得て、前節から戻ってきた状況。いいゲームマネジメントを与えてくれる選手だと思います。今日のゲームでは、静岡BRがスピードを見せてきたのに対してこちらも少しスピードが必要だと考え、アイザック(ルーカス)を入れました。早い時間帯に選手を変えるというのは理想的なパターンではないですが“違い”を与えてくれたと思います。CTB(ハドレー)パークスにとっては厳しい交替になってしまいましたが、あくまで(スタンドの)上の席からの見え方に基づく判断で、アタックでもディフェンスでもスピードが必要であると考えて決めました。

―入替は故障などの影響ではない

ゲームの流れです。相手が広くグラウンドを使ってきて、相手のスピードにもやられていたこと。また相手のディフェンスを見ていて、アイザックをいれたらいいアタックがつくれるんじゃないかという絵が見えた。

FL 松橋周平

ありがとうございました。結果に対してはがっかりしています。先週の三重ホンダヒート戦に勝利してこのままのっていきたかったが、いいプレーもあったんですけど、静岡BRのほうが精度が高く、僕らはそれを受けてしまった。自分たちのラグビーの時間を増やさないとトライにつながらない。相手にアタックをさせないのも大事ですし、一瞬一瞬、1つひとつのプレーが結果につながっていくので、そこの精度をしっかり上げていく改善も必要。僕らはまた次勝つために、いい準備をしていくだけ。次節戦うBL東京(東芝ブレイブルーパス東京)は本当に楽しみな相手なので、勝つためにやれることを全部やろうと思います。

―ルーカスが入りアンストラクチャーでは優位性をつくれていた。ただ、それを狙っていたわけでもない

アイザックが入ってくれば相手にとって脅威になるというのは当然ある。ただ、入ってきたとしても敵陣でしっかりと戦うという方針は変えようとはしていなくて。無理にアタックをしてミスやペナルティで下げられていくというのは僕らの課題でもあるので、やっぱり戦うべきエリアで戦うっていうのが大事だと考えていました。でも、アイザックが攻めると判断したときは、僕らは素早くセットしてそれに対応することが大事になってくる。そのバランスをどうとるかを考えていました。

PR 眞壁貴男

試合の後半から出場する選手として、チームにいい勢いを与え、勝ちにつなげることができなかったのでそこは悔しいです。

―低いスクラムでプレッシャーをという期待を背負った

それもあって起用されていると思うんですけど、トライにつながるアドバンテージを与えてしまったスクラムがあったので、あそこは期待されていたものを出せてはいなかった。修正したいと思います。

―それでも、セットプレーの強い相手に抗っていこうという思いは伝わってきた

FWの選手たちとは細かいことを本当によく話しています。うまく勝ちにはつながっていないですが、いい方向には向いてきているとは思います。でも、FWの強いチームとのゲームに出場させてもらって、そのゲームに負けるというのはやっぱり悔しいですね。

―若い選手も増えてきたチームに感じることは

真面目で、ストイックな素晴らしい選手が増えてきました。あとは元気。元気のよさで勢いを与えていってほしいですね。いいプレーでは盛り上がって、ネガティブな気持ちは溜め込まない。そういうことも大事なので。自分も率先して声をかけていきたいと思っています。

―今日もHO佐藤康がジャッカルを決めたあと、観客にアピールするような仕草を

いいですよね。チームでいいものをどんどんスタックしていく。悪いプレーが出てしまうことはあるけど、反省したら引きずらないで次に向かおうと、よく話をしています。

CTB 礒田凌平

チームは今日、「3フェーズシャットダウン、3フェーズコンプリート」とさらに大きなキーワードとして「Whatever it takes(何が何でも)」というのを掲げていました。ディフェンスなら、相手のアタックは3フェーズでボールを奪う意識でしっかり止め、相手のモメンタムを消す。アタックなら、最初の3フェーズを確実に継続して自分たちのアタックをする。それを実現するために、そのときどきで勝つために自分にできること、しなければならないことを、何が何でもやり通そうと。そういう意識で試合に臨みました。具体的なところでは、正しいエリアで戦おうとも話していました。まず敵陣に入って、そこでしっかりディフェンスをする。ターンオーバーできたら思いきって攻めようと。

―前半はディフェンスでやや消極的なところが出てしまった

ラック周りのインサイドに相手のプレッシャーがかかっていて、ディフェンスで立てていなかったり、回れていなかったりしていて、カバーするために寄っていくうちに外のスペースができ、それを使われてしまった。静岡BRもそういうアタックのかたちが見えていて、僕らの対応をうまく突かれていた感じでした。それで受けに回ってしまって、倒しきれずオフロードパスをつながれた。激しい相手なので、接点に人をかけざるを得なかったり、巻き込まれたりというのもあったとは思いますが、インサイドからしっかりセットして、BKはスペーシングを保って前に上がっていく自分たちのディフェンスができていなかったですね。

―それでも、そのままでは終わらず、流れを変えていった

確かに相手にトライされましたが、一貫性は保てていたと思います。点を獲られてしまったから「とにかくアタックするしかない」とかそういう焦りはなくて、正しいエリアで戦うことを貫こうというコミュニケーションをとっていました。根底にそれがあって、そこにアイザックがアタックなどでモメンタムを与えてくれたという感じでした。これまでトライを獲りきれなかった場面で獲れていたと思うので、アタックでは収穫があったように思います。

ディフェンスについては、ラック周りなどは修正できていたのですが、外側で食い込まれてゲインされる状況はゲームを通して改善できなかったですね。ディフェンスについてはレベルアップのために少し試行錯誤している部分もあったので、課題として話し合いたいと思います。

FB マット マッガーン

惜しいところまでいくんですけど、最後にゴールテープを切れないというか、ラインを越えられないという同じストーリーが続いてしまっています。それでも流れを変えられたのはポジティブなことでした。あとはしっかり引っ繰り返しきることですね。

―ディフェンスで少し苦しんだ印象を受けた

静岡BRはラックスピードをつくりだしていました。あれだけクイックボールを与えてしまうと、何らかのかたちで撃たれる。でも自分たちもコリジョンをドミネートし始めて、それを続けることができるようになると、ゲームの流れを戻せていけたように感じました。

―アタックではいいかたちもつくった

後半のトライは、僕がBR東京に来てからでもベストに近いトライであるように感じました。スピードがあって、ボールをしっかりスイングして、相手にリカバリーする時間を与えずに攻めることができました。

―次は好調のBL東京戦

大事なのは自信を取り戻すこと。後半の20分を見たら、自分たちはやれるというのはわかったはず。あのラグビーを80分間続けられれば、トップチームであっても倒すチャンスはあると思うので。

―プレースキック、ドロップゴール、素晴らしかった

オフシーズンから時間をかけてやってきたことなので、だんだんね。チームを助けられることはなんでもやりたいと思っています

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=388

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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