ダミアン・ヒルHC 退団インタビュー 

2017.03.17

今シーズンを持って日本を離れることになったダミアン・ヒルヘッドコーチ。神鳥裕之監督と3シーズンにわたってコンビを組み、ディフェンスにこだわったチームづくりに邁進。見事結果を残したヒルヘッドコーチに、今シーズンを、そして3年間を振り返ってもらいました。

2年間やってきたことを、貫いたことで結果が出た

——まずはお疲れ様でした。2016-17シーズンが終わってからは、どんな時間を過ごされていたのでしょう?

送別会を開いてもらったり、今シーズンのレポートをつくったりしていました。来シーズンに向けてのプラン、僕からのアイデアをまとめておこうと思って。このチームはどうすれば6位から上を目指していけるか。

——ヘッドコーチに就任した際、「コンディショニング」「ディフェンス」「ブレイクダウン」を3つのテーマとして掲げました。これらは今シーズンの多くの試合で、強みとなっていました。一直線ではなかったかもしれませんが、3シーズンでイメージに近いチームがつくれたのでは?

そうですね。昨シーズンを終えたところで、2年かけて築いてきたシステムから離れなかったことがよい判断だったのだと思います。

——昨シーズンは結果が出なかった。その中でプランを貫くのは、ある意味で勇気も必要だったのでは?

昨シーズンはフォーマットが違いました。ケガ人も多く出ましたし、プレーヤーリストも違った。それに、やってきたことを変えて、それでうまくいくということもあまり多くはないですから。

——トップリーグ開幕前は、どれくらいの手応えがあったのでしょうか?

コンディショニング、ディフェンス、ブレイクダウンという3つのポイントが正しく成長できていれば結果は出るとは思っていました。ただ、選手のケガ、また試合における判断の誤りで結果が大きく変わってしまうことはある。そこは完全にコントロールすることは無理な部分なので、コントロールできる範囲の細かい部分の努力に集中しようと考えていました。

——トップリーグが始まってからは、早い段階で結果が出て、いい流れができました。6位という目標の達成が見えてきたタイミングをもし挙げるなら?

初戦のNEC戦に勝てたのは非常に大きかったですね。それから、ヤマハと早い段階(第5節)で戦って。あの試合は、最終的なスコアは開きましたが(14-47)、競りあえた時間もありました。ミスを減らせば、手が届いたのではないかという感覚を得ました。グラウンドに立った若い選手たちもそれを感じ取っていて、その後につながったように思います。 

 今シーズン、多くの試合は1トライ差くらいで、勝ったり負けたりしました。接戦を勝ちきることが大きな自信になるのはもちろんですが、惜しい試合を落としたあと、それをひきずらずに戦えたのも、良い経験として積み重ねられました。トヨタ自動車戦やクボタ戦に敗れたダメージは大きかったのですが、その次の試合でいいラグビーを見せた。それができたのは大きかったと思います。

——敗れた試合でも、ブレイクダウンだったり、セットプレーだったり、アタックだったり、ディフェンスだったり、どこかの領域では対抗できていたと感じる試合が多かったと思います。

そうですね。プロセスを大事にできたと思います。プロセスはコントロールできる。スコアはコントロールできませんが。

——ヤマハ戦で手応えを感じたというのは、その時点でトップを走っていたチームの力を知って、ということなのでしょうか?

特に相手の強みであるスクラムで対抗できた時間があったので。もちろん総合的にはヤマハが上でしたけどね。

選手たちが力を伸ばした結果、毎週のセレクションは本当に難しくなった

——そして13位から6位へのジャンプアップ。大きな驚きを与えることができたと思います。

最初に、昨シーズンも内容で大きく引き離されて負けていたのではないということ。惜しくも敗れた多くの試合を、うまく勝利に変えることができたのが今シーズン。昨シーズンは順位ほど悪いチームだったわけではありません。

そしてもちろん、若い選手がよくやってくれたことも大きかったですね。神鳥(裕之)監督も若い選手を信じてよく起用したと思います。山内(俊輝)などは1試合の起用ではありましたが、あの出場は来シーズンにつながるものだと思います。

——山内選手が初出場した宗像サニックス戦は、順位のかかった大事な試合でした。

神鳥監督の、監督としての成長を感じました。15人の優れた選手だけが経験を積み、残りはただ埋めていくというメンバー構成ではうまくいかない。どのポジションでも、常にプレッシャーがかかっているというのが理想です。

山内は、サニックスとの試合の前に行われたキヤノンとの練習試合で非常にいいパフォーマンスを見せてくれました。近いポジションではトップリーグで実績のある選手も出場していて、彼らも平均かそれ以上のパフォーマンスをしていた。でもあの試合で上回っていたのは山内。先発を勝ち獲るべき選手が勝ち獲ったのがサニックス戦でした。

 今シーズンは、メンバーに選ばれた23人全員がインパクトを生んでいましたよね。リザーブを出す上で躊躇することはほとんどなかったと思います。振り返ってみても、選手入替の判断が間違っていたかなという記憶もほぼありません。素晴らしかったと思います。毎週のセレクションは本当に難しかったです。23人に入れなかった選手の中にも、いつも3、4人は選ばれるだけの力を見せていましたから。

——試合ごとの選手の入替、先発とリザーブの入替、いずれもかなり頻繁にありました。そのあたりがコンディションの維持、ケガの予防にもつながっていたようにも?

数字を確認してはいませんが、リザーブの選手のゲームタイムは過去に比べると長かったように思います。確かにそういう効果もあったでしょうね。それが、先ほど指摘したような若い選手を起用しやすい状況をつくりだしていたとも思います。チームとしてのバランスと競争はいつも意識していました。大きなスコッドで戦うんだということについては、選手たちも理解していたんじゃないかと思います。

——さらに厳しい枠を争っていた外国人選手たちのモチベーション、チームに対する帰属意識の強さも感じました。

マイキー(ブロードハースト)は素晴らしかった。出場すれば必ずインパクトを残してくれました。序盤ではアレックス(ウォントン)。タマティ(エリソン)も10番として成長したし、同じポジションで競ったコリン(ボーク)の存在も大きかった。ティム(ナナイウィリアムズ)も、出場した試合では他の選手にはないものを見せてくれました。

 そこは外国人選手だけを切り離して語るべきことではないのかな。小松(大祐)、武者(大輔)、松橋(周平)といった長い時間出場した選手たちの貢献も大きかったです。毎週、何を成し遂げたいのか、チャンス、そして脅威が、どこにあるのかは、チームとしてよく共有できていたと思います。

さらに順位を上げるには「ミス削減」「ゲームプランの実行力」「ディフェンスのさらなる強化」

——チームをここまでもってくるためにかかった3年という時間は、長かった? それとも妥当なところ?

現実的に考えて、このくらいの時間はかかるものだと思います。さきほども言ったけれど、昨シーズンは結果からの印象よりいいチームだったと思っています。もちろん、もっといい成績を残したかったですけどね。ただ、システムを自分たちのものにするという点では前に進めていたと思います。チームをつくり始めて、結果を出すにはやはり3年くらいは必要だったのかな。

——3年というヘッドコーチの任期は、最初から決まっていたのでしょうか?

本当はもう少し長くいたいと思っていました。いろいろな事情があって帰国しなければいけなくなってしまいました。

このチームは必ずトップ4に入れると信じています。トップ4に入れば、もう何が起きてもおかしくない。優勝という目標に向かっていくリコーに直接関わりたかったですね。

次の2年はそういうステージに入っていくことになります。追われる立場になるでしょう。多くのチームがリコーをめがけて挑んでくる。まずは今シーズンの6位が実力であることを証明する必要があります。4位、5位に入らなければいけない。トップリーグの上位の壁は厚いですが、リコーには素晴らしい選手がそろっているので、必ずやれますよ。

——具体的に、ここから上にいくために必要な要素は何でしょうか?

ヤマハ、サントリー、パナソニックはミスが少ない。ミスが出てもカバーできる。そこに強さがあります。リコーもミスの少ないチームにならないといけません。そしてゲームプランを守ること。ある程度はできていたと思うんですが、もっとうまく実行できると思います。3つめは今シーズン成長を遂げたディフェンスをさらに強化すること。これはアタックのときの自信にもつながってくるはずです。アタックについては、とにかく実行力を高めていことですね。だいぶトライを獲れるようになりましたが、まだ獲れるはずです。

日本で、リコーで、学ぶことができた様々なこと

——日本に来て、得ようとしたものがあったと思います。それを得ることはできましたか?

日本に来た目的は、当然ヘッドコーチとしてリコーというチームを強くすることです。それはできました。個人としては、これまでとは違うスタッフたち、違うプレーヤーグループと組んで仕事をしてみたいという思いがありました。2つのグループを同じ方向を向かせてリードしていけるか? そこに興味がありました。もちろん監督と一緒にです。

いろいろなことを学びました。コミュニケーション、そして「期待」と「実際にできること」のマネジメントですかね。やりたいこと(期待)があったとして、それが実際にできるかどうかを考える。ここまでを期待しようと決めたら、今度は自分たちが抱えている人材やモノを最大限に生かすための方法を考えていく。それがゲームプランやトレーニングのフォーカスポイント、選手たちへのメッセージにつながっていく。そして力がついてくれば、「期待」をさらに高いところに置けるようになっていきます。

神鳥監督もいらっしゃるので、お互いの責任のバランスや、自分がコントロールできる範囲についての理解、変えなければいけないことがあれば自分が影響を与えていくことは、常に意識していました。

日本の価値観に合わせた判断もしてきました。例えば、日本では辛抱強さやリスペクトというのは高めに価値が置かれます。それは僕が大好きな日本の文化ですが、場合によってはそれが物事の進みを遅らせることもある。そんなことを考えながらコーチングした経験は、これからに生きるものだったと思っています。

——まだまだ、リコーで教えたいんだという気持ちが伝わってきます。神鳥監督とヘッドコーチが力を合わせ、サントリーやパナソニックに勝つところが見たかったです。あと少しのところまで来ているだけに。

僕もだよ。サントリー、パナソニック、ヤマハ……。僕はヤマハに対しては最もリスペクトがあるんです。ある意味では、彼らがやっていることを自分たちもやろうとしてきた。スマートなリクルーティング。しっかりと練られたゲームプラン。フィジカルでフィットネスも高い。いつかリコーも、あのようなチームになれると思いますよ。

——充実した3シーズンでした。昨シーズンは苦しんだ分、今シーズンの喜びも大きかった。毎週末、ワクワクすることができました。

応援にも助けられました。どこにいっても太鼓の音と声援が聞こえてくる。あれは他のチームにないもの。ディフェンス、アタックで大事な場面になるとコールが聞こえてきて、あれがあるかないかでは全然違う。ぜひ続けてほしいです。応援してくれた方々は、今シーズン6位という順位を掴む上で、自分たちは大きな貢献を果たしたと思ってほしいですね。

——何はともあれ、日本での3年間のコーチング、お疲れ様でした。

初めてリコーに来たとき、素質を持った選手がたくさんいることに驚いたのを思い出すよ。もっといいラグビーができなければおかしいって。その年に入ってきた新人たちも素晴らしかった。このリクルーティングが続くのなら必ず強くなると思いました。小松や馬渕(武史)といったシニアプレーヤーも引っ張ってくれたしね。ラグビーをやっていない時間も、すごく楽しい時間でした。

——またいつか、日本に戻ってきますか?

ぜひ戻ってきたいです。ラグビーW杯や五輪もありますしね。リコーには、今後もできる限り協力していきたいと思っています。皆さん、本当にありがとうございました。

——3年間、ありがとうございました!
2016-2017シーズン最終戦終了後、苦楽をともにしたコーチ陣と記念撮影

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